ミルラ
英名: Myrrh
CAS No. 9000-45-7 (Myrrh Gum, Myrrh Resin)
JECFA No. 該当なし
別名: Arabian myrrh C molmol
Commiphora molmol Karam
Morr higazi
化学式: -
分子量: -
構造式: -
1.基原・製法
カンラン科ボツヤク(Commiphora mukul ENGL.)の分泌液より、低沸点部を蒸留により除去し、室温時エタノールで抽出し、エタノールを留去して得られたものである。成分としてコミホールを含む。
2.主な用途
ガムベース
3.安全性試験の概要
ラット、経口、TDLo(最小毒性量)14 g/kg(14 日間連続投与)1)
6 週齢の雌雄F344/DuCrlCrlj ラットにミルラを 0、5,000、15,000 又は 50,000 ppm
(雄;0、290、850、3,000 mg/kg 体重/日、雌;0、310、950、3,220 mg/kg 体重/日 相当)の濃度で 90 日間混餌投与し、一般状態観察、体重測定、摂餌量測定、尿検査、血液学的検査、血清生化学的検査、臓器重量測定、肉眼病理学的検査及び病理組織学的検査が実施された。その結果、雌雄ともに 50,000 ppm 群において体重増加抑制が認められ、雄の 50,000 ppm 群の腎臓において近位尿細管上皮における軽度の硝子滴が認められた。なお、同群の腎臓の免疫組織化学染色においてα2u-グロブリンの増加は認められず、雄ラット特異的なα2u-グロブリン腎症以外の要因も否定できなかった。以上の結果から、本試験における被験物質の無毒性量は雌雄ともに中間用量である
15,000 ppm(雄:850 mg/kg 体重/日、雌:950 mg/kg 体重/日)と判断された 2,3)。
ミルラをネズミチフス菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537 株)及び大腸菌(WP2 uvrA 株)にそれぞれ処理し、その変異原性、すなわち遺伝子突然変異誘発性の有無を代謝活性化によらない場合と代謝活性化による場合を用いて検討された。
本試験は、各試験菌株の最高用量を 5,000 µg/plate 又は生育阻害が認められる用量に設定し、以下公比 2 で計 6 用量とされた。すなわち、非代謝活性化条件下の TA98、 TA100、TA1535、TA1537 株は 625、312.5、156.3、78.1、39.1、19.5 µg/plate、WP2
uvrA 株、代謝活性化条件下の TA98、TA100、TA1535、TA1537 株は 5000、2500、 1250、625、312.5、156.3 µg/plate とされた。
本試験の結果、各試験菌株の復帰変異コロニー数は、代謝活性化系の有無に関らず、用量依存性ならびに陰性対照群の 2 倍以上の増加は認められなかった。なお、生育阻害は非代謝活性化条件下の TA98、TA100、TA1535、TA1537 株の 312.5 µg /plate 以上、非代謝活性化条件下のWP2 uvrA 株、代謝活性化条件下の TA98、TA100、TA1535、 TA1537 株の 5,000 µg/plate で認められた。代謝活性化条件下の WP2 uvrA 株では認められなかった。被験物質の沈殿は認められなかった。また、用量設定試験及び本試験との間に再現性も確認された。一方、各試験菌株の陽性対照群の復帰変異コロニー数は、いずれも陰性対照群と比較して顕著な増加が認められた。
以上の結果より、当該試験条件下におけるミルラの遺伝子突然変異誘発性は、陰性と判断された 4)。
ミルラのチャイニーズ・ハムスター肺由来線維芽細胞(CHL/IU)を用いた染色体異常試験を実施し、その染色体異常誘発性の有無が検討された。用量設定のために実施した細胞増殖抑制試験の結果をもとに、短時間処理法及び連続処理法の 24 時間処理
では 400 µg/mL を最高用量とし、以下、公比 2 で計 4 用量を、連続処理法の 48 時間
処理では 300 µg/mL を最高用量とし、以下、公比 2 で計 5 用量を設定して染色体異常試験が実施された。
その結果、短時間処理法及び連続処理法ともに、全ての用量でギャップを含まない染色体異常を有する細胞の出現率、及び倍数体の出現頻度ともに 5%未満を示した。全ての処理法において、陰性対照群、及び陽性対照群ともに、試験施設の背景値内の異常細胞の出現頻度を示したことから、試験は適切に実施されたと考えられた。
以上の結果から、ミルラは本試験条件下において染色体の構造異常、及び数的異常は誘発しないと結論された 5)。
ミルラの生体での染色体異常誘発性の有無について調べる目的で雄性 ICR 系マウスを用いて小核試験が実施された。ミルラを 2,000、1,000、500 及び 0 mg/kg(媒体)の用量で 24 時間間隔 2 回経口投与し、最終投与の 24 時間後に標本が作製された。
同時に陽性対照群としてマイトマイシン C、2 mg/kg の単回腹腔内投与群を設け、投与 24 時間後に標本が作製された。各々の小核誘発能及び全多染性赤血球出現率を評価された。
一般状態及び体重推移において特記すべき異常は確認されなかった。標本観察においてミルラ投与群では、小核を有する多染性赤血球の出現率は陰性対照の背景データの上限を越えておらず、統計学的にも陽性を示さなかった。それに対し陽性対照群は陰性対照の背景データの上限を上回り統計学的にも陽性を示した。また、同時に観察した全多染性赤血球の全赤血球に対する比において、ミルラ投与群では陰性対照群と比較して、一定の傾向はみられなかった。また、陽性対照群では有意な増殖抑制が観察された。
以上の結果より本試験条件下において、ミルラは 2,000、1,000 及び 500 mg/kg 用量の 24 時間間隔で 2 回経口投与した時、in vivo における小核誘発能を有さず、また、骨髄細胞の増殖抑制作用を有さないものと結論された 6)。
遺伝毒性試験のまとめ Ames 試験 陰性染色体異常試験 陰性 in vivo 小核試験 陰性総合判定 陰性
4.検討結果
現状の使用において、人の健康影響に対する懸念はないものと結論された。
5.参考資料
RTECS Number:GK1279500
石井雄二、高須伸二,並木萌香,小川久美子:令和2年度 既存添加物の安全性に関する試験「ラットを用いたミルラの90日間反復経口投与毒性試験」(最終報告書)、 2021年
Mitsumoto T., Ishii Y., Namiki M., Nakamura K., Takasu S., Ogawa K. A 90-day subchronic toxicity study of Myrrh in F344 rats. Regul. Toxicol. Pharmacol. 2021, in press.
松村直子:ミルラの細菌を用いる復帰突然変異試験、最終報告書、株式会社SRD生物センター、2011年
園明:ミルラのほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、指定添加物の安全性に関する試験最終報告書、株式会社ボゾリサーチセンター、2011年
青山典人:ミルラのマウスを用いる小核試験、最終報告書、株式会社DIMS医科学研究所、2011年