ペクチン分解物
英名: Pectin digests
CAS No. 該当なし
JECFA No. 該当なし
EC No. 該当なし
別名: 分解ペクチン
化学式: -
分子量: -
構造式: -
1.基原・製法
ペクチン(サトウダイコン(Beta vulgaris L. var. rapa Dum.)、ヒマワリ(Helianthus annuus L.)、アマダイダイ(Citrus sinensis(L.)Osbeck)、グレープフルーツ(Citrus
×paradisi Macfad.)、ライム(Citrus aurantiifolia(Christm.)Swingle)、レモン(Citrus limon(L.)Burm. f.)又はリンゴ(Malus pumila Mill.)から、水若しくは酸性水溶液で抽出したものから得られたもの又はこれをアルカリ性水溶液若しくは酵素で分解したものから得られたメチル化ポリガラクツロン酸等の多糖類を成分とするものをいう。)を酵素で分解して得られた、ガラクツロン酸を主成分とするものである 1)。
2.主な用途
保存料(めんつゆ、各種のタレ・ソース、漬物、生珍味等)
3.流通実態
あり(出荷量:5,000 kg、一日摂取量:0.09 mg/人/日)1)
4.安全性試験の概要
マウス、経口、LD50 4,350 mg/kg 体重 2)
雌雄の 6 週齢 F344/DuCrj ラットにペクチン分解物を 0、0.15、0.5、1.5 及び 5%の濃度で 13 週間飲水投与した 2)。その結果、体重増加抑制が雄の 5%群にみられた。血清生化学的検査では、BUN の高値が雄の 5%群に、Cre の高値が雄の 1.5%群以上でみられた。臓器重量の検索では、肝臓の絶対及び相対重量の増加が雌の 1.5%群以上でみられた。
以上の結果より NOAEL は 0.5%(雄:545 mg/kg 体重/日、雌:657 mg/kg 体重/日)と判断された。
ペクチン分解物の細菌を用いる復帰突然変異試験を実施し、遺伝子突然変異誘発性
(変異原性)の有無を検討した。被験物質は混合物のため純度 100%として試験を実施した。溶媒は注射用水(溶解)とし、純度換算は行わなかった。
検定菌として、ネズミチフス菌(TA100、TA1535、TA98、TA1537)及び大腸菌(WP2 uvrA)を用い、プレインキュベーション法により、非代謝活性化及び代謝活性化条件下で試験を行った。
用量設定試験の結果に基づき、すべての検定菌で 313、625、1250、2500 及び 5000 µg/plate の 5 用量を設定して本試験を行った。その結果、生育阻害は、非代謝活性化及び代謝活性化条件下のいずれの検定菌においても認められなかった。陰性対照値の 2 倍以上となる変異コロニー数の増加は、非代謝活性化条件下の TA100 及び TA98 で認められ、用量依存性及び再現性が認められた。陽性結果が得られた検定菌に関して、変異コロニー数が陰性対照値の 2 倍以上に増加した用量について比活性を算出した。
その結果、本被験物質について、最大比活性は 80 [TA100、非代謝活性化条件下、5000 µg/plate(用量設定試験及び本試験)]であった。
以上の結果に基づき、ペクチン分解物は、用いた試験系において遺伝子突然変異誘発性を有する(陽性)と判定した 3)。
ペクチン分解物について、CHL/IU 細胞(チャイニーズ・ハムスター、雌肺由来)を用いる染色体異常試験を実施し、ペクチン分解物についての染色体異常誘発作用の有無を検討した。被験物質は混合物のため純度 100%として試験を実施した。溶媒は注射用水(溶解)とし、純度換算は行わなかった。
短時間処理(6 時間処理及び 18 時間の回復時間)の非代謝活性化及び代謝活性化条件下、ならびに連続処理(24 時間処理)について、陰性対照群及び被験物質処理群を設定して用量設定試験を行った。
用量設定試験の結果に基づき、各処理条件について、陰性対照群、被験物質処理群
(短時間処理の非代謝活性化条件下及び連続処理の 0.050、0.10、0.20、0.30、0.40、
0.50 mg/mL、短時間処理の非代謝活性化条件下の 0.25、0.50、1.0、1.5、2.0 mg/mL)、
陽性対照群を設定して染色体異常試験を行った。。その結果、沈殿(処理終了時)は、いずれの処理条件においても認められなかった。また、40%未満となる相対細胞数増加率は、いずれの処理条件においても認められなかった。したがって、短時間処理の非代謝活性化条件下及び連続処理の 0.30、0.40 及び 0.50 mg/mL、短時間処理の代謝活性化条件下の 1.0、1.5 及び 2.0 mg/mL の被験物質処理群について染色体分析を行った。
染色体分析の結果、連続処理の被験物質処理群 0.50 mg/mL において、構造異常を有する細胞数の増加が 5%水準で認められた。また、短時間処理の非代謝活性化条件下の被験物質処理群 0.40 及び 0.50 mg/mL 並びに連続処理の被験物質処理群 0.30、 0.40、0.50 mg/mL の用量において、倍数性細胞数の増加が 5%水準で認められた。傾向性については、いずれも 1%水準で有意な用量依存性が認められた。一方、短時間処理の代謝活性化条件下においては、構造異常を有する細胞数及び倍数性細胞数の統計学的に有意な増加は認められなかった。
以上の結果より、当該試験条件下においてペクチン分解物は CHL/IU 細胞に対する染色体異常誘発作用を有する(陽性)と結論した 3)。
ペクチン分解物の生体内における染色体異常誘発性の有無を評価するため、マウス
(Crl:CD1(ICR)系の雄)骨髄細胞を用いる小核試験を実施した。被験物質は混合物のため純度 100%として試験を実施した。溶媒は注射用水(溶解)とし、純度換算は行わなかった。
毒性予備試験は、雌雄マウスを用いて、被験物質を 250、500、1000 及び 2000 mg/kg体重/日の用量で、1 日 1 回、24 時間間隔で 2 日間強制経口投与した。その結果、いずれの投与群においても一般状態の変化及び死亡は認められず、最大耐量は雌雄マウスともに 2000 mg/kg 体重/日であった。
毒性予備試験の結果に基づき、小核本試験は、陰性対照群(日局注射用水)、被験物質投与群(500、1000 及び 2000 mg/kg 体重/日)及び陽性対照群(cyclophosphamide monohydrate)の計 5 群を設定し、雄マウスを用いて行った。陰性対照群および被験
物質投与群は、1 日 1 回、24 時間間隔で 2 日間強制経口投与した。陽性対照群は 50 mg/kg 体重の用量で単回強制経口投与した。いずれの投与群も、最終投与の 18~24時間後に骨髄塗抹標本を作製して小核の観察を行った。その結果、被験物質投与群の小核出現頻度に統計学的な有意差は認められなかった。一方、陽性対照群の小核出現頻度は 1%水準で有意な増加が認められ、本試験系の妥当性が確認された。赤血球中に占める幼若赤血球の比率は、被験物質投与群と陰性対照群との間に統計学的な有意差は認められなかった。
以上の結果から、本試験条件下では、ペクチン分解物は、マウス骨髄細胞において染色体異常誘発作用を示さない(陰性)と結論した 3)。
遺伝毒性試験のまとめ Ames 試験 陽性染色体異常試験 陽性 in vivo 小核試験 陰性
総合判定 判定保留
その他試験に関する情報なし
5.検討結果のまとめ
本剤の遺伝毒性について、in vivo 小核試験が陰性であったことから生体で染色体異常を誘発する可能性が低いと考えられる一方、Ames 試験陽性を示しており、変異原性物質である可能性が否定できない。適切な安全性評価のためにはフォローアップ試験としてトランスジェニックマウス遺伝子突然変異試験を、被験物質として使用する剤の妥当性を考慮した上で実施し、あらためて安全性評価を行う必要があると判断された。
6.参考資料
佐藤恭子、生産量統計調査を基にした食品添加物摂取量の推定に係る研究 その2既存添加物品目、令和元年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)「食品添加物の安全性確保に資する研究」分担研究「食品添加物の摂取量推計及び香料規格に関する研究」、2020年3月
Takagi H, Yasuhara K, Mitsumori K, Onodera H, Takegawa K, Takahashi M. 13- week Subacute Oral Toxicity Study of Pectin digests in Rats. Bull. Natl. Inst. Health Sci. 1997; 115: 119-124.
杉山圭一、令和2年度 指定添加物・既存添加物の安全性に関する試験報告書、
2021年