ブドウ種子抽出物
1.食品添加物名
ブドウ種子抽出物(アメリカブドウ又はブドウの種子から得られた、プロアントシアニジンを主成分とするものをいう。)
2.基原、製法、本質
ブドウ科アメリカブドウ( Vitis labrusca LINNE) 又はブドウ科ブドウ( Vitis vinifera LINNE)の種子より、熱時水、温時エタノール若しくは室温時アセトンで抽出したものより得られたもの、又はこの抽出物を、酵母を用いて発酵処理したものより得られたもの、若しくはタンナーゼにより加水分解処理したものより得られたものである。主成分はプロアントシアニジンである。
3.主な用途
酸化防止剤、製造用剤
4.安全性試験成績の概要
(1)単回投与試験
F344 ラットに単回強制経口投与毒性試験を行った。LD50 は雌雄ともに 4,000 mg/kg 以上であった。1)
アルビノラット雌雄各 5 匹を用いて、5,000 mg/kg の用量で単回強制経口投与毒性試験を行った。その結果、雌1匹が投与初日に死亡した。剖検では前胃に茶色の物質の付着がみられた。経口の LD50 は雌雄ともに 5,000 mg/kg 以上であった。
2)
(2)反復投与試験
① ラット 90 日間反復投与試験
F344 ラットを用いた混餌投与(0.05%,0.5%,5.0%、被験物質摂取量としてそれぞれ雄 28.4,286,3020 mg/kg 体重/日、雌 33.4,335,3530 mg/kg 体重/日)による 13 週間反復投与試験を行った。その結果、一般状態、体重、摂餌量、臓器重量、血液学的検査、血液生化学的検査、肉眼的病理検査及び病理組織学的検査において、投与による毒性学的変化は認められなかった。臓器重量では、雄の 5.0%群では肝臓/脳重量比及び腎臓/脳重量比が有意な低下を示したが、病理組織学的検査において何ら変化は観察されず、また、これらの臓器の絶対重量は投与群と対照群の間で有意差がなかったことから、投与に起因する変化ではないと考えられた。3)
SD ラットを用いた混餌投与(0.63%,1.25%,2.5%、被験物質摂取量としてそれぞれ雄 434,860,1790 mg/kg 体重/日、雌 540,1050、2170 mg/kg 体重/日)による3ヶ月間反復投与試験を行った。最高用量は、タンニン類による栄養吸収阻害影響が出現しない用量を選択した。その結果、一般状態、体重、摂餌量、血液学的検査、血液生化学的検査に特記すべき変化は認められなかった
。病理組織学的検査においても被験物質に起因する毒性変化は認められなかっ
た。無毒性量は雌雄ともに 2.5%(雄;1,790 mg/kg 体重/日、雌;2,170 mg/kg
体重/日)と考えられた。4)
F344 ラットを用いた混餌投与(0.02%,0.2%,2.0%、被験物質摂取量としてそれぞれ雄 13.3,129,1410 mg/kg 体重/日、雌 14.8,154,1500 mg/kg 体重/日)による 90 日間反復投与試験を行った。その結果、一般状態、体重、摂餌量、摂水量、血液学的検査、血液生化学的検査に特記すべき変化は認められなかった。剖検、臓器重量及び病理組織学的検査においても被験物質に起因する毒性変化は認められなかった。無毒性量は雌雄ともに雄;1,400 mg/kg 体重/日
、雌;1,500 mg/kg 体重/日(2.0%)と考えられた。1)
SD ラットを用いた混餌投与(0.5%,1.0%,2.0%、被験物質摂取量としてそれぞれ雄 348,642,1,586 mg/kg 体重/日、雌 469,883、1,928 mg/kg 体重/日)による 90 日間反復投与試験を行った。その結果、一般状態、血液学的検査
、肉眼的病理検査及び病理組織学的検査に被験物質投与に関連した影響は認められなかった。2.0%群の雌雄で摂餌量の増加が認められたが、それに伴う体重増加は認められなかった。雄 2.0%群では血清中の鉄濃度が有意な低下を示した
。以上の変化は背景データの範囲内の変動であるとして、無毒性量は雌雄ともに 2.0%(雄;1,586 mg/kg 体重/日、雌;1,928 mg/kg 体重/日)と考えられた。
5)
② マウス6ヶ月間、12 ヶ月間反復投与試験
B6C3F1 マウス雄を用いた混餌投与(100 mg/kg 体重/日)による 12 ヶ月間反復投与試験を行った。マウスは投与開始後3、6、9及び 12 ヶ月に継時的解剖を行った。その結果、血液生化学的検査、臓器重量、剖検及び病理組織学的検査に被験物質に起因する変化は認められなかった。次いで、B6C3F1 マウス雌を用いた混餌投与(100、250、500 mg/kg 体重/日)による、6ヶ月間反復投与試験を行った。その結果、各検査項目において、特記すべき変化は何ら認めず
、また、病理組織学的検査においても被験物質に起因する毒性変化は認められなかった。本文献 2)に無毒性量の記載はないが、無毒性量は 500 mg/kg 体重/日と考えられた。
(3)遺伝毒性試験
細菌(TA98、TA100、TA1535、TA1537)を用いた復帰突然変異試験は、1,250 µg/プレート(TA98,TA100)もしくは 5,000 µg/プレート(TA1535、TA1537)まで試験されており、S9mix の有無にかかわらず、全て陰性であった。1)
チャイニーズハムスター肺由来細胞(CHL/IU)を用いた染色体異常試験においては、S9mix 存在下、非存在下での短時間処理(6 時間)、および長時間処理(24, 48 時間;-S9mix)で、5.0 mg/mL の最高用量まで試験が実施された。50%細胞増殖抑制を示す濃度までの染色体異常誘発性は全て陰性であった。1)
マウスの骨髄を用いた小核試験は、本剤を 500、1000、2000 mg/kg の用量で
24 時間間隔、2 回経口投与し、最終投与の 24 時間後に観察を行った。全ての用量
において、小核の誘発、骨髄細胞の増殖抑制作用は観察されなかった。1)
マウスの骨髄を用いた小核試験は別にも報告されている。本剤を 500、1000、 2000 mg/kg の用量で1回経口投与し、24 時間後、もしくは 48 時間後に観察を行った。最高用量において、骨髄細胞の増殖抑制作用が観察されたことから、本剤は適切に骨髄組織に曝露されていることが証明されたが、小核の誘発はいずれの処理群においても観察されなかった。6)
以上の結果から、ブドウ種子抽出物には遺伝毒性はないものと考えられた。
5.検討結果
これらの試験成績からは、人の健康影響に対する懸念は認められなかった。
(引用文献)
1 . Yamakoshi J, Saito M, Kataoka S, Kikuchi M., Safety evaluation of proanthocyanidin-rich extract from grape seeds. Food Chem. Toxicol., 40
(5): 599-607, 2002
2.Ray S, Bagchi D, Lim PM, Bagchi M, Gross SM, Kothari SC, Preuss HG, Stohs SJ., Acute and long-term safety evaluation of a novel IH636 grape seed proanthocyanidin extract. Res. Commun. Mol. Pathol. Pharmacol., 109 (3-4): 165-197, 2001
3.ラット 13 週間反復投与試験(企業データ:非公表)
4.Bentivegna SS, Whitney KM., Subchronic 3-month oral toxicity study of grape seed and grape skin extracts. Food Chem. Toxicol., 40 (12): 1731-1743, 2002
5.Wren AF, Cleary M, Frantz C, Melton S, Norris L., 90-day oral toxicity study of a grape seed extract (IH636) in rats. J. Agric. Food Chem., 50(7):2180-92. 2002 6.Erexson GL., Lack of in vivo clastogenic activity of grape seed and grape skin extracts in a mouse micronucleus assay. Food Chem. Toxicol., 41(3): 347-50,
2003