1.食品添加物名
フェルラ酸
2.基原、製法、本質
イネ科イネ(
Oryza
sativa
LINNE)の糠より得られた米糠油を、室温時 弱アルカリ性下で含水エタノール及びヘキサンで分配した後、含水エタノール画分に得られたγ-オリザノールを、加圧下熱時硫酸で加水分解し、精製して得られたもの、又は細菌(Pseudomonas)を、フトモモ科チョウジノキ(
Syzygium
aromaticum
MERRILL et
PERRY)のつぼみ及び葉より水蒸気蒸留で得られた丁子油、又は丁子油から精製して得られたオイゲノールを含む培養液で培養し、その培養液を、分離、精製して得られたものである。成分はフェルラ酸である。
3.主な用途
酸化防止剤
4.安全性試験成績の概要
(1)90日間反復投与試験
F344ラットを用い、検体濃度を0.32、0.8、2.0、5.0%となるように調製し、混餌投与にて90日間反復経口投与試験を実施した。その結果、5.0%群の雌雄で3-7週時に脱毛が認められた。最終体重は5.0%群の雌雄で低値を示した。また、摂餌量及び摂水量とも5.0%群で低値を示した。血液学的検査において、5.0%群の雌雄で血小板の減少が見られた。血液生化学的検査の検査項目において、5.0%群の雌雄でALB、ALP、AMYの増加、2.0%群の雌でコレステロールの増加が認められた。臓器重量では、5.0%群の雌雄で肝、腎の相対重量増加、胸腺、前立腺、卵巣、子宮の相対重量の減少、2.0%群の雄で肝、腎の相対重量増加が認められた。組織学的検索では、雌雄ともに好酸性変化を伴う肝細胞肥大が用量相関性にみられ、5.0%群の雄において精巣の精上皮変性、耳下腺腺房上皮萎縮、大腿骨骨梁・皮質骨の厚さの減少が認められた。1)
以上から、無毒性量は雌雄とも0.8%と考えられた。
(2)遺伝毒性試験
細菌を用いた復帰突然変異原性試験は、20mg/プレートまで試験されており、S9mixの有無にかかわらず、溶媒対照の1.5倍以上のHis+復帰コロニーを誘発しなかった。3)
哺乳類培養細胞(CHL)を用いた染色体異常試験は、構造異常ならびに倍数性細胞の出現頻度には再現性が認められ、いずれも擬陽性と判定された。2),4)
マウスを用いた小核試験は、限界用量である2000mg/kg×2まで試験されており、いずれの用量においても小核誘発性はないと結論された。2),5)
以上の結果から、染色体異常試験で擬陽性の結果が得られているものの、in
vivo骨髄小核試験及び発がん性試験の結果を考慮すると、生体にとって特段問題となる遺伝毒性は無いものと考えられる。
(3)1年間反復投与毒性/発がん性併合試験
F344ラットを用いた混餌(0.5、1.0、2.0%)投与による1年間反復投与毒性試験では、0.5%群の雄で1匹の死亡が確認され、検体投与群で3-8週時に脱毛が認められた。体重及び摂餌量に有意な変化は認められなかった。血液学的検査では、雄では有意な変化は認められず、雌では白血球数及び血小板数の低値、赤血球数の高値、白血球型別百分率における好中球の比率低値、リンパ球及び単球の比率高値の有意な変化が認められたがいずれも濃度依存性はなく、毒性学的に意義のない変化と考えられた。血液生化学的検査では、雄では1.0%以上の群でCREの低値が認められたが、毒性学的意義に乏しい変化と考えられた。臓器重量では、雄では0.5%以上の群で脳の実重量の高値、2.0%群で膵臓及び腎の相対重量の高値、雌では2.0%群で副腎の実重量の低値、2.0%群で肝臓の相対重量の高値及び副腎の相対重量の低値が認められたが、いずれも軽微なものであり偶発的な変化と考えられた。病理組織学的検査では、いずれの臓器においても被験物質に起因すると考えられる病変は認められなかった。
以上から、無毒性量は雌雄とも2.0%(雄:557.6±117.6mg/kg/day、雌:717.4±221.6mg/kg/day)と推定される。6)
F344ラットを用いた混餌(0.5、1.0、2.0%)投与による2年間発がん性試験では、被験物質の投与に起因すると考えられる死亡は認められず、被験物質投与群で一過性の脱毛を観察したが、その他の臨床徴候は認めなかった。血液学的検査では変化は認めなかった。血液生化学的検査では、雄では1.0%以上の群でTPの低値、雌では2.0%群でAG比の高値が認められたが、いずれも投与とは関連のない偶発的な変化と考えられた。雄では、最終体重に有意な差はなく、雌では、0.5%群のみで最終重量の増加がみられ、1.0%群で膵臓及び副腎の実重量の低値が、2.0%群で膵臓、副腎及び心臓の実重量及び副腎の相対重量の低値が認められた。病理組織学的検査では、雌では2.0%群で肝内胆管増殖病変の発生頻度の高値が認められたが、肝内胆管周囲炎に対する反応性変化と考えられた。
以上から、フェルラ酸投与に起因すると考えられる腫瘍性病変の発生増加は観察されず、発がん性は認められないと考えられた。7)
(引用文献)
1.多田幸恵:天然添加物フェルラ酸のF344ラットによる亜慢性毒性試験、東京衛研年報 Ann. Rep. Tokyo Wetr. Res. Lab. P.H., 52,
272-278, 2001
2.林真:厚生省等による食品添加物の変異原性評価データシート(昭和54年度~平成10年度分)、Environ. Mutagen Res., 22:27-44(2000)
3.宮部正樹:食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所
4.望月信彦:食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人食品農医薬品安全性評価センター
5.栗田年代:食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人残留農薬研究所
6.田中卓二:平成16年度厚生労働科学研究費補助金、反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性評価に関する研究
7.田中卓二:平成17年度厚生労働科学研究費補助金、反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性に関する研究