フィチン(抽出物)

基本情報

英名: Phytin (extract)

CAS No.: -

JECFA No.: -

別名: フィチン

構造式: -

1.基原・製法

イネ科イネ(Oryza sativa LINNE)の種子より得られた米ぬか又はイネ科トウモロコシ(Zea mays LINNE)の種子より、室温時水で抽出して得られたものである。主成分はイノシトールヘキサリン酸マグネシウム3である。

2.主な用途

製造用剤(酸化防止、キレート剤)

3.流通実態

1)消除対象4

消除対象から復活5


2)流通実態

令和 3 年度における日添協等を対象とした生産量調査では、製造量及び出荷量は

681 kg であった(令和 2 年度実績)1)

3)食品添加物公定書の規格

規格なし(第 10 版食品添加物公定書で設定予定)

4.安全性試験の概要

フィチン(抽出物)は、既存添加物の自主規格において、フィチン酸のマグネシウム塩であるイノシトールヘキサリン酸マグネシウムを 80%以上含むと報告されている 2)。フィチン酸のマグネシウム塩やナトリウム塩は、胃内のような低 pH においてはフィチン酸と金属イオンに乖離するものと考えられる 3,4)。フィチン酸の添加物としての安全


3 フィチンの類似物質であるフィチン酸は、イネ(Oryza sativa L.)の種子から得られた米ぬか 又はトウモロコシ(Zea mays L.)の種子から水又は酸性水溶液で抽出し、精製して得られたイノシトールヘキサリン酸を主成分とするものである。

4 「消除予定添加物名簿の作成に係る既存添加物の販売等調査について(周知依頼)」(平成 29 12

22 日付け薬生食基発 1222 第1号)の別添 1「食品添加物として販売の用に供されていない既存添加物(案)(196 品目)」に収載

5 一度消除候補となったが、その後使用していることの申出があったことから、消除候補から除かれた。

性については、既存添加物の安全性評価に関する調査研究(平成 8 年度調査)5)において、フィチン酸の反復投与試験、発がん性試験、催奇形性試験、変異原性試験に基づき、基本的な安全性について評価済みの添加物とされている。

1)急性毒性試験

フィチン(抽出物)及び主成分であるイノシトールヘキサリン酸マグネシウム(CAS 3615-82-5)について、急性毒性試験として経口投与の情報はない。

なお、平成 8 年度調査 5)では報告書に記載されていないが、フィチン酸及びフィチン酸ナトリウムについて、以下の急性毒性に関する情報が報告されている。


フィチン酸


ラット(雄)

経口

LD50 405 mg/kg 6)

ラット(雌)

経口

LD50 480 mg/kg 6)

マウス(雄)

経口

LD50 900 mg/kg 7)

マウス(雌)

経口

LD50 1,150 mg/kg 7)


フィチン酸ナトリウム


ラット(雄)

経口

LD50 1,030 mg/kg 6)

ラット(雌)

経口

LD50 1,200 mg/kg 6)

マウス(雄)

経口

LD50 1,030 mg/kg 7)

マウス(雌)

経口

LD50 2,750 mg/kg 7)


2)反復投与毒性試験

フィチン(抽出物)及び主成分であるイノシトールヘキサリン酸マグネシウム(CAS 3615-82-5)についての反復投与に関する情報はない。

3)遺伝毒性試験

フィチン(抽出物)主成分であるイノシトールヘキサリン酸マグネシウム(CAS 3615-82-5)についての遺伝毒性に関する情報はない。

4)その他の情報

本剤と類似のフィチン酸カルシウムについては、フィチン酸カルシウムに係る食品健康影響評価書(食品安全委員会、令和 4 9 9 日)において、添加物として適切に使用される場合に安全性に懸念はないと判断されている 8)

5)海外評価書における扱い

フィチン(抽出物)またはフィチンとしての海外での評価情報はない。

なお、FDA において、フィチン酸は、酸化防止剤・キレート剤・抗菌剤として 0.2%

の濃度で、又は、栄養補助食品のカプセルの溶解度低下抑制及び強度の補強としての

用途で 8.0%の濃度での使用において GRAS とされている 9)

5.検討結果のまとめ

フィチン(抽出物)の主成分であるイノシトールヘキサリン酸マグネシウムは、胃内でほぼ乖離し、フィチン酸イオン及びマグネシウムイオンを生じると考えられる。フィチン酸については、既存添加物として安全性は確認されたと判断されている 5)。マグネシウムイオンについては、350 mg//日を通常の食事以外からの摂取上限値とすることが適当と判断されており、仮にフィチン(抽出物)の生産量の全量がマグネシウムであった場合を想定しても、摂取量は 11.75 µg//日と極めて低く、当該成分が問題となる可能性は低い。また、フィチン(抽出物)は、基本的には、食品成分である米ぬか、コーン種子を原料として、常温時水で抽出した成分であることを考慮すると、夾雑物についても食品成分である米ぬか、コーン種子と同様の成分が消化管内で吸収、分解されると考えられることから、夾雑物についても安全性上問題となる可能性は極めて低いと考えられる。

以上の検討結果を踏まえ、本剤のヒトの健康影響に対する懸念は低いと結論された。


6.参考資料

  1. 佐藤恭子:食品添加物の生産量統計調査を基にした摂取量の推定に関わる研究

    その 2 既存添加物品目、令和 3 年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)「食品添加物の安全性確保に資する研究」分担研究「食品添加物の摂取量推計及び香料規格に関する研究」、2022

  2. 独立行政法人酒類総合研究所:フィチン酸カルシウムの食品添加物指定のための概要書.p152022

  3. Cheryan M, Anderson FW, Grynspan F: Magnesium-Phytate Complexes: Effect of pH and Molar Ratio on Solubility Characteristics. Cereal Chemistry, 60(3): 235-237. 1983

  4. Champagne ET, Rao RM, Liuzzo JA, Robinson JW, Gale RJ, Miller F: Isolation and Identification of Soluble Magnesium and Potassium Phytates from Rice Bran. Cereal Chemistry, 63(2): 160-163. 1986

  5. 厚生労働省:既存添加物の安全性評価に関する調査研究(平成 8 年度調査)_

    1_ 林 班 報 告 書 _ フ ィ チ ン 酸 、 2001 https://www.ffcr.or.jp/houdou/2001/05/7DB23E5C8A68DA0F49256A46001D 4C37.html

  6. 市川久次、大石真之、高橋省、小林博義、湯沢勝広、細川奈津子、橋本常生:フィチン酸ならびにフィチン酸ナトリウムのラットにおける経口急性毒性.東京都立衛生研究所研究年報, 38371-3761987

  7. 藤谷知子、米山允子、樺島順一郎、細川奈津子、市川久次:フィチン酸および

    フィチン酸ナトリウムのマウスに対する急性毒性.東京都立衛生研究所研究年報, 38368-3701987

  8. 食品安全委員会:添加物評価書「フィチン酸カルシウム」、2022

  9. FDA: Agency response letter GRAS Notice N 000381. 2012