フィチン酸


1.食品添加物名
 フィチン酸(Phytic acid)

2.基原・製法・本質
 イネ科イネ(Oryza sativa LINNE)の種子より得られた米ぬか又はイネ科トウモロコシ(Zea mays LINNE)の種子より、室温時水又は酸性水溶液で抽出し、精製して得られたものである。主成分はイノシトールヘキサリン酸である。

3.主な用途
 酸味料、製造用剤

4.安全性試験成績の概要
(1)単回投与試験
 急性経口LD50はマウスで0.9g/kg、ラットで0.41g/kgと考えられる1),2)

(2)反復投与/発がん性試験
 F344 ラットを用いた飲水(0.6、1.25、2.5、5.0、10%)投与による 12週間の反復投与試験において、10%投与群の全例、5.0%投与群の雄全例及び雌1例が試験終了前に死亡、1.25、2.5%投与群では体重増加抑制が認められた。無毒性量は 300mg/kgと考えられる3)
 F344ラットを用いた飲水(1.25、2.5%)投与による100~108週の発がん性試験において、体重増加抑制及び尿の潜血反応が両投与群で認められている。病理学的検査で腎孟の過形成が両投与群の雄にみられ、腎孟乳頭腫が投与群の少数例(雄 2.5%群 3/57、雌 2.5%群 4/55、雌 1.25%群 3/58)に認められている。この腎孟乳頭腫の発生は、フィチン酸等キレート作用を有する物質を高用量長期間投与すると、ラットでは腎孟に石灰沈着が起き、この刺激による上皮の壊死と再生が腫瘍の発生を促すためであると考えられており、本試験において腎孟の乳頭種が認められた動物では、腎に石灰沈着あるいは乳頭壊死が観察されている。他の臓器には検体投与に起因する病理組織学的変化は認められていない4)

(3)催奇形性試験
 SDラットを用いた妊娠7日~17 日間の混餌(0.625、1.25、2.5%)投与による催奇形性試験において、催奇形性は認められていないが、2.5%投与群で母体に対する影響の二次的な影響によると考えられる骨格変異の頻度の増加が認められている。無毒性量は750mg/kg/dayと考えられる8)

(4)変異原性試験
 細菌を用いた復帰変異試験5)、哺乳類培養細胞を用いた染色体異常試験5)、マウスを用いた小核試験6)の結果は、いずれも陰性と判断される。

(引用文献)
1.藤谷知子: フィチン酸及びフィチン酸ナトリウムのマウスに対する急性毒性, 東京都立衛生研究所研究年報, 38, 368-370, 1987
2.北里大学公衆衛生学部教室, 急性試験成績報告書 (昭和43年9月)
3.市川久次: フィチン酸ならびにフィチン酸ナトリウムのラットにおける経口急性毒性, 東京都立衛生研究所研究年報, (38), 371-376, 1987
4.Y. Hiasa, Y. Kitahori, J. Morimoto, N.Konishi, S. Nakaoka, and H. Nishioka: Carcinogenicity study in rats of phytic acid 'Daiichi', a natural food additive, Food Chem. Toxicol. 30(2), 117-125, 1992
5.石館基ら: 食品添加物の変異原性試験成績 (その2), 変異原と毒性, 4(6), 80-89, 1981
6.石館基ら: 食品添加物の変異原性試験成績 (その9), トキシコロジーフォーラム, 11(6), 663-669, 1988
7.松本信雄ら:昭和 62 年度食品添加物安全性再評価等の試験検査, フィチン酸の催奇形性に関する研究 (厚生省委託研究), 東京慈恵会医科大学