1.食品添加物名
トコトリエノール(Tocotrienol)
2.基原・製法・本質
イネ科イネ(
Oryza
sativa
LINNE)の米ぬか油、ヤシ科アブラヤシ(
Elaeis
guineesis
JACQ.)のパーム油等より、分離して得られたものである。成分はトコトリエノールである。
3.主な用途
酸化防止剤
4.安全性試験成績の概要
(1)反復投与試験
F344ラットを用いた混餌(0.19、0.75、3%)投与による90日間の反復投与試験で、血液学的検査において、MCHの減少が雄の3%群に、Hb及びMCHCの減少が雌の3及び0.75%群に、Htの減少が雌の3%群に認められた。血液生化学的検査において、ALTの増加が雌雄の3%群に、AST及びγ-GTの増加が雌の3%群に認められ、病理組織学的に肝細胞肥大が雄の0.75%以上の群で認められた。また、3%群で精巣重量の増加及び卵巣及び子宮重量の減少が認められた。
貧血傾向が雌の0.75%以上の群で、肝細胞肥大が雄の0.75%以上の群で認められたため、無毒性量は0.19%(雄:119.0 mg/kg/day、雌:129.8
mg/kg/day)と考えられた。また、雄の血液学的検査でのMCVの減少、血清生化学検査でのA/G及びALPの増加、副腎重量の増加が軽度ではあるが0.19%投与群でも認められたため、今回の試験では無影響量は求めることができなかった。1)
(2)遺伝毒性試験
細菌を用いた復帰突然変異試験(TA98、100、1535、1537及び1538)は、50mg/プレートまで試験されており、S9mixの有無にかかわらず、陰性であった。2)
哺乳類培養細胞(CHL)を用いた染色体異常試験では、5000μg/mLまで試験されており、連続処理法ならびに短時間処理法ともトコトリエノール処理による染色体異常の明確な誘発は認められず、陰性であった。3)
マウスを用いた小核試験では、限界用量を超えて3000mg/kg×2まで試験されており、小核含有多染性赤血球の頻度は陰性対照群と比較して有意差を認めず、陰性であった。4)
以上の結果から、生体にとって遺伝毒性は示さないものと結論した。
(3)ハーシュバーガー試験
精巣を摘出したSprague-Dawley系ラットを用いて、アンドロゲン作用を調べるために、被験物質を100、300、1000
mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。また、抗アンドロゲン作用を調べるために、テストステロンプロピオネイトを0.4 mg/kg/dayの用量で皮下投与し、同時に被験物質を100、300、1000
mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。いずれの試験においても、投与は10日間反復して行い、最終投与の約24時間後に屠殺、器官重量の測定を行った。
その結果、皮下投与では、いずれの投与群においても動物の死亡及び一般状態の異常は認められなかったが、1000mg/kg群(アンドロゲン作用試験)で摂餌量の低下が、1000
mg/kg群(抗アンドロゲン作用試験)で体重の増加抑制及び摂餌量の低下が認められた。器官重量では、肝臓重量の増加が両試験の1000
mg/kg群で認められたが、アンドロゲン作用あるいは抗アンドロゲン作用を示唆する有意な変化は認められなかった。
経口投与では、いずれの投与群においても動物の死亡は認められず、一般状態、体重及び摂餌量についても変化は認められなかった。器官重量では、測定したいずれの器官においてもアンドロゲン作用あるいは抗アンドロゲン作用を示唆する有意な変化は認められなかった。
以上の結果から、トコトリエノールは皮下及び経口投与により、生体内でアンドロゲン作用又は抗アンドロゲン作用を示さないものと判断された。5)
(4)子宮肥大反応試験
卵巣を摘出したSprague-Dawley系ラットを用いて、エストロゲン作用を調べるために、被験物質を30、100、300、1000
mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。また、抗エストロゲン作用を調べるために、エチニルエストラジオールを0.6 μg/kg/dayの用量で皮下投与し、同時に被験物質を100、300、1000
mg/kg/dayの用量で皮下又は経口投与した。いずれの試験においても、投与は7日間反復して行い、最終投与の約24時間後に屠殺、子宮重量の測定を行った。
その結果、皮下及び経口投与では、いずれの投与群においても動物の死亡は認められず、一般状態、体重についても変化は認められなかった。子宮重量では、いずれの投与群においてもエストロゲン作用あるいは抗エストロゲン作用を示唆する有意な変化は認められなかった。
以上の結果から、トコトリエノールは皮下及び経口投与により、生体内でエストロゲン作用又は抗エストロゲン作用を示さないものと判断された。5)
(5)1年間反復投与毒性/発がん性併合試験
Wistar
Hannoverラットを用いた混餌(0.08、0.4、2.0%)投与による1年間反復投与毒性試験では、2.0%群の雄で6匹の死亡が確認されたが、その他の群においては死亡及び一般状態の異常は認められなかった。血液学的検査では、雄では0.4%以上の群でMCVの減少、2.0%群でHb、Ht及びMCHの有意な減少及びプロトロンボン時間の延長、雌では2.0%群でHb、Ht、MCV及びMCHの減少及びMCHCの増加を示した。血液生化学的検査では、雄では0.4%以上の群でTG及びグルコースの減少、Na及びClの増加、2.0%群でA/G比、P、AST、ALT、ALP、直接Bil及びプロトロンビン時間の増加及びLDHの減少、また全ての投与群でコレステロールエステル比の減少、雌では2.0%群でTP及びALPの増加及び総Bil、直接Bil及び間接Bilの減少が認められた。臓器重量では、2.0%群の雄で脳、肺、心臓、副腎、腎臓及び精巣の相対重量の増加、雌で脳、心臓、肝臓、副腎及び腎臓の相対重量の増加が認められた。病理組織学的検査では、2.0%群の雌雄で肝臓の肝細胞結節性過形成と海綿状変性及び肺胞内への泡沫細胞の限局的な集簇が高頻度で認められた。6例の途中死亡動物では、剖検で脳底部及び腸間膜リンパ節などでの出血が、また全例に肝海綿状変性が観察され、胸部リンパ節、心内膜下、膀胱粘膜下などに出血巣がみられた。
以上から、無毒性量は雌雄とも0.4%(雄:297mg/kg/day、雌:467mg/kg/day)と推定される。
Wistar
Hannoverラットを用いた混餌(0.4、2.0%)投与による2年間発がん性試験では、2.0%群の雄で死亡例が増加したため50週目から投与量を1.0%に引き下げて実験を継続した。雄では、最終体重及び臓器重量に群間差はみられなかった。雌では、最終体重が用量相関的に低値を示し、腎臓の絶対重量の用量相関的な減少、肺及び心臓の相対重量の用量相関的な増加、高用量(2.0→1.0%)群での肺、心臓及び脾臓の絶対重量の減少及び肝臓及び腎臓の相対重量の増加が認められた。剖検では、雌雄の高用量群において肝臓の結節性病変が多発しているのが観察され、それらは病理組織学的に肝細胞結節性過形成、肝細胞腺腫ないし肝細胞癌であることが確認された。高用量群の雌雄で肝細胞結節性過形成の発生増加及び雌で肝細胞腺腫のわずかな増加が認められた。6)
(引用文献)
1.広瀬雅雄:平成10年度食品添加物規格基準設定等試験、国立医薬品食品衛生研究所 病理部
2.宮部正樹:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所
3.望月信彦:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人食品農医薬品安全性評価センター
4.蜂谷紀之:平成9年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、秋田大学 医学部
5.太田亮:平成15年度食品・添加物等規格基準に関する試験検査等、財団法人食品薬品安全センター秦野研究所
6.西川秋佳:平成17年度厚生労働科学研究費補助金、反復投与毒性や発がん性試験等の実施による既存添加物の安全性に関する研究