テオブロミン

英名: Theobromine CAS No. 83-67-0

JECFA No. 該当なし別名: 該当なし


構造式:


  1. 基原・製法

    アオギリ科カカオ(Theobroma cacao LINNE)の種子、アオギリ科コーラ(Cola acuminata SCHOTT et ENDL.)の種子又はツバキ科チャ(Camellia sinensis O. KZE.)の葉より、水又はエタノールで抽出し、分離して得られたものである。成分はテオブロミンである。


  2. 主な用途

    苦味料等


  3. 安全性試験の概要

    1. 急性毒性試験

      経口投与の情報なし


    2. 反復投与毒性試験

      ラット・マウス・ハムスター(それぞれ系統不明)に、テオブロミンを 28 日間混餌投与した 1)。体重、臓器重量、一部臓器の病理組織学的検索が実施された。ラットでは、最低用量 0.2%(雄:94 mg/kg 体重/日、雌:110 mg/kg 体重/日)以上投与群で、胸腺重量の低下が認められ、0.6%群では病理組織学的変化を伴っていた。マウスでは、1.2%1,800 mg/kg)群において、死亡率の増加と病理組織学的変化を伴う精巣毒性が認められた。ハムスターでは、最高用量の 1.0%1,027 mg/kg)群においても毒性影響は認められなかった。

      ラット(系統不明)にテオブロミンを 49 日間混餌投与した結果、精巣毒性に対する無毒性量(NOAEL)は 88 mg/kg 体重/日であった 1)49 日時点で片側精巣を摘出し、さらに 49 日間の回復期間を置いたところ、88 mg/kg 群の残存精巣に傷害は認められなかったが、244 および 334 mg/kg 群では不可逆的な毒性がみられた。

      ラットおよびウサギにおいて、児動物に骨格形成遅延が観察され、無毒性量(NOAEL)はそれぞれ 48 および 21 mg/kg 体重/日であった 1)。テオブロミンの生殖発生毒性についてレビューした結果、動物での無毒性量(NOAEL)は 50 mg/kg 体重/日と結論された 1)


    3. 変異原性試験

      情報なし。カフェインの代謝物であり、カフェインの遺伝毒性評価が適用されると考えられる 1)。カフェインは香味物質として利用されるときは、遺伝毒性の懸念が無いと評価されている 1)。


    4. その他

      ラットおよびウサギにおいて、児動物に骨格形成遅延が観察され、無毒性量(NOAEL)はそれぞれ 48 および 21 mg/kg 体重/日であった 1)。テオブロミンの生殖発生毒性についてレビューした結果、動物での無毒性量(NOAEL)は 50 mg/kg 体重/日と結論された 1)。健康なボランティア計 84 人に、テオブロミン 2505001,000 mg を単回経口投与 するプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験が実施された 1)。有害作用として頭痛および吐き気が、特に 1,000 mg 投与群に多く観察された。500 mg 以上投与群において、心

      拍数低下が認められた。無毒性量は(NOAEL250 mg/人と考えられた。

      健康なボランティア計 42 人に、飲料に混ぜたテオブロミンを 106, 979 mg/日(それぞれ 1.514.0 mg/kg 体重/日)の用量で 3 週間投与し、2 週間の休薬期間を設けるプラセボ対照二重盲検交叉比較試験が実施された 1)14.0 mg/kg 体重/日投与群で血圧の有意な変動等が認められた。さらに、ボランティア計 38 人に、飲料に混ぜたテオブロミンを 1508501,000 mg/日(それぞれ 2.112.114.2 mg/kg 体重/日)の用量で 4 週間投与するプラセボ対照二重盲検ランダム化比較試験が実施された 1)。有害作用として吐き気、嘔吐、頭痛および下痢が観察され、頻度は 12.1 mg/kg 体重/日以上投与群で高かった。


    5. 海外評価書における扱い

      EFSA2017)では、テオブロミンのヒト長期ばく露による毒性影響を評価した報告が存在しないことから、テオブロミンの安全性評価は、カフェインのデータに基づいて実施された 1)。経口摂取されたカフェインの約 11%がテオブロミンに変換されること、およびカフェインの参照用量(5.7 mg/kg 体重/日、子供・青年・妊娠中または授乳中の女性に対しては 3 mg/kg 体重/日)から、香味料としてのテオブロミンの参照用量を 0.6 mg/kg 体重/日、子供・青年・妊娠中または授乳中の女性に対しては 0.3 mg/kg 体重/日と設定した

      1)。この数値はカフェイン摂取による有害作用を、概ね代謝後のテオブロミンの影響とす

      る仮定に基づくものだが、実際にはテオブロミンの薬理活性はカフェインよりも低く、テオブロミンの有害影響を最大限に見積もった値であるとしている 1)。食事からの(カフェイン由来を含む)テオブロミン摂取量の推定値はほとんどの年代で 0.3 mg/kg 体重/日を下回った一方、3-10 歳の子供における 95 パーセンタイルは 0.5 mg/kg 体重/日に達したが、参照用量は上記の通り保守的な値であり、香味料としての摂取量はほとんど無視できるレベルであったことから、香味料としてのテオブロミンの使用に安全上の懸念はないと評価されている 1)


      テオブロミンを対象とした複数のヒト臨床試験において、有害作用の認められない用量として 1.5-2.1 mg/kg 体重/日が報告されているが、投与期間が短いことおよび安全性評価を目的とした試験ではないことから、参考情報に留めている。


      IARC1991)では、テオブロミンの発がん性について、データが不足しているとして Group 3(ヒトに対する発がん性を分類できない)に分類している 2)


  4. 結論

    日本国内ではテオブロミンの使用実績は非常に限られている。従って、現在の流通・摂取状況からみれば、テオブロミンに関しては安全性への懸念はない。


  5. 参考資料

    1. EFSA Panel on Food Contact Materials, Enzymes, Flavourings and Processing Aids (CEF). (2017) Scientific Opinion on Flavouring Group Evaluation 49, Revision 1 (FGE.49Rev1): xanthine alkaloids from the priority list. EFSA Journal, 15(4):4729.

    2. IARC (International Agency for Research on Cancer): (1991) Coffee, tea, mate, methylxanthines and methylglyoxal. IARC Monographs on the Evaluation of Carcinogenic Risks to Humans, 51:41–197.