ジャマイカカッシア抽出物

1.食品添加物名
 ジャマイカカッシア抽出物(ジャマイカカッシアの幹枝又は樹皮から得られた、クアシン及びネオクアシンを主成分とするものをいう。)

2.基原、製法、本質
 ニガキ科ジャマイカカッシア( Quassia excelsa SW.)の幹枝又は樹皮より、水で抽出して得られたものである。有効成分はクアシン及びネオクアシンである。

3.主な用途
 苦味料等

4.安全性試験成績の概要
(1)90日間反復投与試験
 F344系ラットに、被験物質を0.005、0.05及び0.5%の濃度で飼料に混入し、90日反復投与試験を行った。その結果、動物の死亡は認められず、一般状態、摂餌量及び体重に変化は認められなかった。
 血液生化学的検査において、雌の0.5%群ではγ-GTPの増加が認められ肝臓への影響が示唆された。
 蛋白および非蛋白窒素では、雌雄の0.5%群でTPとAlbの増加が認められた。また脂質では、雄の0.5%群でTGの減少、雌の0.5%群でT-Choの増加が認められた。電解質では、雌雄の0.5%群でCaの増加、雌の0.5%群でPの増加が認められた。これらのうち、TP、Alb、Ca及びPの変化は正常範囲内の変動と考え、統計学的な有意差は認められるものの、毒性学的に意義のある変化とは考えられなかった。
 臓器重量では、雌雄の0.5%群で肝臓の絶対及び相対重量の増加が認められた。さらに、雄では腎臓の相対重量の増加が認められたが病理組織学的検査を含め他の検査では、腎障害を示唆するような変化は認められなかった。
 病理組織学的検査では、雌雄の0.5%群で肝細胞の肥大及び甲状腺濾胞細胞の過形成が認められた。
 以上から、無毒性量は雌雄とも0.05%(雄:27.9 mg/kg/day、雌:30.1 mg/kg/day)と考えられた。1)

(2)遺伝毒性試験
 細菌( S. typhimurium TA98、TA100、TA1535、TA1537および E. coli WP2 uvr A/pKM101)を用いた復帰突然変異原性試験では、S9mix存在下でTA98、TA100、TA1537及びWP2urA/pKM101が陽性を示した。2)
 哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いた染色体異常試験では、短時間処理法(-及び+S9mix)において、用量依存的な染色体構造異常の誘発が認められた。3)
 マウス(ICR系、雄)の骨髄を用いた小核試験は、限界用量である2000 mg/kg×2まで試験されており、いずれの用量においても小核の誘発は認められなかった。4)
 Sprague-Dawley系SPF雄ラットを用いて、被験物質を500、2000mg/kgの用量で単回強制経口投与し、 in vivo ラット肝不定期DNA合成試験(肝UDS試験)を行った。その結果、長時間処理および短時間処理ともに、陰性対照群と比較して、有意な放射性チミジンの取り込みの増加は認められなかった。以上の結果より、ラットの肝細胞においてDNA損傷性を有しないもの(陰性)と結論された。5)
以上の結果から、in vitroでは遺伝毒性を示すものの、in vivo骨髄小核試験及び肝不定期DNA合成試験の結果を考慮すると、生体にとって特段問題となる遺伝毒性は無いものと考えられる。

(3)中期肝発がん性試験
 F344系ラットを用いて、diethylnitrosamineを200 mg/kg、単回腹腔内投与し、2週目より被験物質を0.05、0.5、3.0%の用量で混餌投与を開始し、3週目に肝部分切除を行った。投与は継続し8週目に屠殺、剖検した結果、3.0%群で、陽性対照であるphenobarbitalと同様に、glutahione S -transferase placental form陽性の酵素変異肝細胞巣の数と面積が増加を示し、有意差は無いものの用量依存的な傾向はその下の用量である0.5%でも見られた。
 以上から、高用量でラット肝臓に対して発がん促進作用があることが示唆された。6)

(4)1年間反復投与毒性試験
 F344系ラットに、被験物質を0.0005、0.005、0.05、0.5%の濃度で飼料に混入し、1年間反復投与毒性試験を行った。その結果、0.5%群の雌で2例の死亡が認められたが、それ以外については、一般状態、体重及び摂餌量に変化は認められなかった。また、0.0005及び0.005%群では被験物質投与による影響は認められなかった。
 血液学的検査では、0.5%群の雌雄でHb、Ht、MCV及びMCHの減少が認められた。
 血液生化学的検査では、0.05%群の雄でTP及びAlbの増加が、0.5%群の雌雄でTP及びAlbの増加及びALP及びT-Bilの減少、雌でGlc、T-Cho、PL及びγ-GTPの増加が、雄でTGの増加及びChEの減少が認められた。
 尿検査では、0.05%以上の群の雌及び0.5%群の雄でタンパクの増加が認められた。
 臓器重量では、0.05%群の雄で肝臓重量増加が、0.5%群の雌雄で肝臓、腎臓、副腎及び甲状腺重量増加が、雌で心臓重量増加、肺相対重量増加及び脾臓相対重量減少が認められた。
 病理組織学的検査では、0.05%群の雄で肝細胞肥大が、0.5%群の雌雄で肝細胞肥大、慢性進行性腎症及び甲状腺濾胞上皮の瀰慢性過形成が、雄で変異肝細胞巣の出現頻度(動物数)及び大きさの増加及び脾臓での赤芽球系の髄外造血の軽微な亢進が見られた。死亡した0.5%群の雌については、33週で切迫解剖した動物で腎臓に腎芽腫が、51週で死亡した動物で副腎に褐色細胞腫が認められた。
 以上より、無毒性量は雌雄とも0.005%(雄:2.1±0.6 mg/kg/day、雌:2.5±0.6 mg/kg/day)と推定される。また、0.5%群の雄で変異肝細胞巣の出現頻度と大きさの増加が認められたことから、大量投与による肝臓への発がん促進作用の可能性が示唆された。7)


(引用文献)
1.関田清司:厚生労働科学研究費補助金、国立医薬品食品衛生研究所安全生成物試験研究センター
2.兒島昭徳:平成12年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、名古屋市衛生研究所
3.望月信彦:平成12年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人食品農医薬品安全性評価センター
4.岩本毅:平成12年度食品添加物規格基準作成等の試験検査、財団法人残留農薬研究所
5.小野宏:平成16年度食品・添加物等規格基準に関する試験検査等について、財団法人食品薬品安全センター秦野研究所
6.広瀬雅雄:平成16年食品添加物安全性再評価試験、国立医薬品食品衛生研究所・病理部
7.関田清司:平成17年度厚生労働科学研究費補助金、既存添加物の発がん性等に関する研究