キハダ抽出物
英名: Phellodendron bark extract CAS No. なし
JECFA No. 該当なし
別名: オウバク軟稠エキス構造式: -
1.基原・製法
ミカン科キハダ(Phellodendron amurense RUPR.)の樹皮より、水又はエタノールで抽出して得られたものである。主成分はベルベリンである。
2.主な用途
苦味料等(飲料、漬物等)
3.流通実態
消除対象から復活
日添協等を対象とした平成 26 年 1)、平成 29 年 2)における生産量調査において報告なし
4.安全性試験の概要
急性毒性試験として経口投与の情報なしベルベリン塩酸塩 3):
マウス、経口、LD50 329 mg/kg 体重、ラット、経口、TDLo 100 mg/kg 体重
マウス、経口、TDLo 93.75~200 mg/kg 体重
3 「消除予定添加物名簿の作成に係る既存添加物の販売等調査について(周知依頼)」(平成 29 年 12
月 22 日付け薬生食基発 1222 第1号)の別添 1「食品添加物として販売の用に供されていない既存添加物(案)(196 品目)」に収載
Crl:CD(SD)ラット(6 週齢、雌雄各群 10 匹)を用いたキハダ抽出物の強制経口投与(媒体:注射用水、0、80、250、800 mg/kg 体重/日)による 90 日間反復投与毒性試験が実施された 4)。当該試験を実施するにあたり被験物質の入手可能最大量が 2 kgであったことから、調整可能な最大量を考慮して投与量が設定された。なお、試験実施期間中の被験物質および投与検体の含量および安定性については、キハダ抽出物液中の塩化ベルベリン濃度を指標に確認され、試験実施施設における塩化ベルベリン濃度の測定値(測定日:2021 年 7 月 1 日、HPLC 法)は 2.244%であった。(製造事業者における成分含量についての測定値(測定日:2020 年 7 月 1 日~2020 年 7 月 6日):乾燥重量 52.5%、灰分 3.1%、ベルベリン 5.1%)
試験の結果、投与期間中に雌雄とも死亡動物はみられず、一般状態、体重、摂餌量、摂水量、眼科学的検査、尿検査、血液学的検査、血液生化学的検査、剖検所見及び病理組織学的検査のいずれにおいても被験物質投与による影響は認められなかった。
以上の結果より、本試験条件下におけるキハダ抽出物の NOAEL は、雌雄ともに
800 mg/kg 体重/日と判断された 4)。
キハダ抽出物の細菌を用いる復帰突然変異試験を実施し、遺伝子突然変異誘発性
(変異原性)の有無を検討した。被験物質は混合物のため純度 100%として試験を実施した。溶媒は注射用水(溶解)とし、純度換算は行わなかった。
検定菌として、ネズミチフス菌(TA100、TA1535、TA98、TA1537)及び大腸菌
(WP2 uvrA)を用い、プレインキュベーション法により、非代謝活性化及び代謝活性化条件下で試験を行った。
用量設定試験の結果に基づき、非代謝活性化条件下の TA100 及び TA1537 と代謝 活性化条件下のTA1537 については 6 用量(156、313、625、1250、2500 及び 5000 µg/plate)、非代謝活性化条件下の TA1535 については 7 用量(39.1、78.1、156、313、 625、1250 及び 2500 µg/plate)、非代謝活性化条件下の WP2 uvrA 及び TA98 と代謝活性化条件下のTA100、TA1535、WP2 uvrA 及び TA98 については 5 用量(313、 625、1250、2500 及び 5000 µg/plate)を設定して本試験を行った。その結果、生育阻害は、非代謝活性化条件下の TA100、TA1535 及びTA1537 と代謝活性化条件下の TA1537 で認められた。陰性対照値の 2 倍以上となる変異コロニー数の増加は、非代謝活性化条件下の全ての検定菌と、代謝活性化条件下の TA1535、WP2 uvrA 及び TA98 で認められ、代謝活性化条件下の TA98 以外の検定菌については変異コロニー数の増加に用量依存性及び再現性が認められた。陽性結果が得られた検定菌に関して、変異コロニー数が陰性対照値の 2 倍以上に増加した用量について比活性を算出した。その結果、本被験物質について、最大比活性は 181[TA98、非代謝活性化条件下、625 µg/plate(本試験)]であった。
以上の結果に基づき、キハダ抽出物は、用いた試験系において遺伝子突然変異誘発性を有する(陽性)と判定した 5)。
キハダ抽出物について、CHL/IU 細胞(チャイニーズ・ハムスター、雌肺由来)を用いる染色体異常試験を実施し、キハダ抽出物についての染色体異常誘発作用の有無を検討した。被験物質は混合物のため純度 100%として試験を実施した。溶媒は注射用水(溶解)とし、純度換算は行わなかった。
短時間処理(6 時間処理及び 18 時間の回復時間)の非代謝活性化及び代謝活性化条件下、並びに連続処理(24 時間処理)について、陰性対照群及び被験物質処理群を設定して用量設定試験を行った。用量設定試験の結果に基づき、各処理条件について、陰性対照群、0.063、0.13、0.25、0.50、1.0 及び 2.0 mg/mL の濃度での被験物質処理群及び陽性対照群を設定して染色体異常試験を行った。その結果、沈殿(処理終了時)は、全ての処理条件において、0.50 mg/mL 以上の被験物質処理群で認められた。また、40%未満となる相対細胞数増加率は、いずれの処理条件においても認められなかった。したがって、0.25、1.0 及び 2.0 mg/mL の濃度での被験物質処理群について染色体分析を行った。染色体分析の結果、いずれの処理条件においても構造異常を有する細胞数及び倍数性細胞数の統計学的に有意な増加は認められなかった。
以上の結果より、当該試験条件下で、キハダ抽出物は CHL/IU 細胞に対する染色体異常誘発作用を有しない(陰性)と結論された 5)。
キハダ抽出物の生体内における染色体異常誘発性の有無を評価するため、マウス
(Crl:CD1(ICR)系の雄)骨髄細胞を用いる小核試験を実施した。被験物質は混合物のため純度 100%として試験を実施した。溶媒は注射用水(溶解)とし、純度換算は行わなかった。
毒性予備試験は、雌雄マウスを用いて、被験物質を 250、500、1000 及び 2000 mg/kg体重/日の用量で、1 日 1 回、24 時間間隔で 2 日間強制経口投与した。その結果、いずれの投与群においても一般状態の変化及び死亡は認められず、最大耐量は雌雄マウスともに 2000 mg/kg 体重/日以上であった。
毒性予備試験の結果に基づき、小核本試験は、陰性対照群(日局注射用水)、被験物質投与群(500、1000 及び 2000 mg/kg 体重/日)及び陽性対照群(cyclophosphamide monohydrate)の計 5 群を設定し、雄マウスを用いて行った。陰性対照群及び被験物
質投与群は、1 日 1 回、24 時間間隔で 2 日間強制経口投与した。陽性対照群は 50 mg/kg 体重の用量で、単回強制経口投与した。いずれの投与群も、最終投与の 18~ 24 時間後に骨髄塗抹標本を作製して小核の観察を行った。その結果、被験物質投与群の小核出現頻度に統計学的な有意差は認められなかった。一方、陽性対照群の小核出現頻度は 1%水準で有意な増加が認められ、本試験系の妥当性が確認された。赤血球
中に占める幼若赤血球の比率は、被験物質投与群と陰性対照群との間に統計学的な有意差は認められなかった。
以上の結果から、本試験条件下では、キハダ抽出物は、マウス骨髄細胞において染色体異常誘発作用を示さない(陰性)と結論された 5)。
遺伝毒性試験のまとめ Ames 試験 陽性染色体異常試験 陰性 in vivo 小核試験 陰性
総合判定 判定保留
その他試験に関する情報なし
5.検討結果のまとめ
本剤の遺伝毒性について、Ames 試験陽性を示しており、変異原性物質である可能性が否定できない。適切な安全性評価のためにはフォローアップ試験としてトランスジェニックマウス遺伝子突然変異試験を、被験物質として使用する剤の妥当性を考慮した上で実施し、あらためて安全性評価を行う必要があると判断された。
6.参考資料
佐藤恭子、生産量統計調査を基にした食品添加物摂取量の推定に係る研究 その2既存添加物品目、平成28年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)「食品添加物の安全性確保のための研究」分担研究「食品添加物の摂取量推計及び香料規格に関する研究」、2017年3月
佐藤恭子、生産量統計調査を基にした食品添加物摂取量の推定に係る研究 その2既存添加物品目、令和元年度厚生労働科学研究費補助金(食品の安全確保推進研究事業)「食品添加物の安全性確保に資する研究」分担研究「食品添加物の摂取量推計及び香料規格に関する研究」、2020年3月
RTECS: Berbinium, 7,8,13,13a-tetrahydro-9,10-dimethoxy-2,3-(methylenedioxy) RTECS Number: DR9870000
北嶋聡、令和3年度「既存添加物の安全性に関する試験」に係る報告書、キハダ抽出物のラットを用いた90日間反復経口投与毒性試験、2022年3月
杉山圭一、令和2年度 指定添加物・既存添加物の安全性に関する試験報告書、2021年3月31日