カワラヨモギ抽出物(109)
1.食品添加物名

 カワラヨモギ抽出物(カワラヨモギの全草から得られた、カピリンを主成分とするものをいう。)

2.基原、製法、本質
 キク科カワラヨモギ( Artemisia capillaris THUNB.)の全草より、室温時エタノール若しくは含水エタノールで抽出して得られたもの、又は水蒸気蒸留して得られたものである。有効成分はカピリン等である。

3.主な用途
 保存料

4.安全性試験成績の概要
(1)90日間反復投与試験
 Crl/CD(SD)ラットを用いた強制経口(カピリン換算表示で0、0.02、0.2、2mg/kg)投与による90 日間反復投与毒性試験を行った。その結果、いずれの群の動物においても死亡は認められず、一般状態、詳細な状態観察、機能検査、体重推移、摂餌量、眼科的検査、尿検査、剖検所見、器官重量及び病理組織学的所見において被験物質に起因すると考えられる毒性学的に意義のある変化は認められなかった。
 血液生化学的検査では、2mg/kg 群の雌で対照群と比較してグルコースの有意な高値が認められたが、併設したエタノール含有対照群とは差がなく、媒体中に含まれるエタノールに関連した変化であると考えられた。また、2 mg/kg 群以上の雌でβ-グロブリン分画比の有意な高値が認められたが、他の分画に関連する変動がないことから、被験物質投与に関連した変化でないと判断した。
 以上から、無毒性量は雌雄ともカピリン2mg/kg と判断した。 1)

(2)遺伝毒性試験
 細菌(TA100、TA1535、TA98、TA1537、WP 2uvrA )を用いた復帰突然変異試験は、5000μg/プレートまで試験されており、S9mix 非存在下で生育阻害が認められた。またS9mix 非存在下のTA98 及びS9mix 存在下のTA1537 において用量相関的に陰性対照の2 倍以上になる復帰変異コロニー数の増加が認められたことから陽性と判断した。 2)
 哺乳類培養細胞(CHL/IU)を用いて、染色体異常試験におけるS9mix 存在下、確認試験におけるS9mix 非存在下及び24 時間処理した結果、構造異常を有する細胞の出現頻度は明らかな増加を示し、かつ用量依存性が認められた。各培養系列で顕微鏡観察が可能であった最高用量(S9mix 非存在下の0.13mg/mL、S9mix 存在下の2mg/mL、24 時間処理の0.11mg/mL)の細胞増殖率は、いずれも50%未満であった。以上の結果から、染色体異常誘発性は陽性と判断された。 3)
 雄のCrlj:CD1(ICR)SPF マウスを用いた小核試験では、限界用量である2000mg/kg/日×2まで経口投与で試験されており、小核の出現頻度はいずれの用量においても陰性対照群と比較して有意な増加が認められなかったことから陰性と判断した。 4)
 C57BL/6JJmS1c-Tg 系(gpt delta)マウスを用いた28 日間反復強制経口投与による突然変異試験を実施した。最終投与の3 日後に肝臓および胃(腺胃)を採取し、遺伝子突然変異頻度(MF)を測定した結果、いずれの臓器においても、被験物質投与群におけるMF に有意な増加が認められなかったことから、肝臓及び胃(腺胃)において遺伝子突然変異誘発作用は示さない(陰性)と判断した。 5)
 以上の結果から、 in vitro で認められた変異原性及び染色体異常誘発性は in vivo 試験系においては確認されず、生体にとって特段の問題となるものではないと考える。

5.検討結果
 これらの試験成績及び摂取量推計の結果からは、人の健康影響に対する懸念は認められなかった。

(引用文献)
1.松浦正男:平成22年度既存添加物の安全性に関する試験、(株)化合物安全性研究所
2.山内久実:平成21年度既存添加物の安全性に関する試験、(株)ボゾリサーチセンター
3.菊池正憲:カワラヨモギ抽出物のほ乳類培養細胞を用いる染色体異常試験、(株)SRD 生物センター
4.石井孝広:カワラヨモギ抽出物のマウスを用いた小核試験、(株)ボゾリサーチセンター
5.小野 宏:平成24 年度指定添加物等の安全性に関する試験 カワラヨモギ抽出物のgpt delta トランスジェニックマウス突然変異試験 (財)食品薬品安全性センター