L-ヒドロキシプロリン
英名: L-Hydroxyproline
CAS No. 51-35-4
JECFA No. 該当なし
別名: L-オキシプロリン
(2S,4R)-4-Hydroxypyrrolidine-2-carboxylic acid Hydroxy-L-proline
Hydroxyproline
4-Hydroxyproline
L-4-Hydroxyproline trans-4-Hydroxyproline trans-Hydroxyproline trans-L-Hydroxyproline
L-Proline, 4-hydroxy-, trans- (9CI)
化学式: C5H9NO3
分子量: 131.13
構造式:
1.基原・製法
ゼラチン等を、加水分解し、分離して得られたものである。主成分は L-ヒドロキシプロリンである。
2.主な用途
調味料、強化剤
3.安全性試験の概要
ラット経口 LD50 >16 g/kg 体重 1)
① 90 日間反復投与毒性試験
Crl:CD (SD)ラット(6 週齢、雌雄各 10 匹/群)を用いた L-ヒドロキシプロリンの強制経口投与(溶媒:水、0、100、300 及び 1,000 mg/kg 体重/日)による 90 日間
反復投与毒性試験が実施された 2)。
その結果、投与による死亡はみられず、一般状態、体重、眼科学検査、尿検査、血液学的検査及び血液生化学的検査に異常はみられなかった。摂餌量については、 1,000 mg/kg 群の雄において第 7 週以降に有意な低値がみられた。摂水量については、1,000 mg/kg 群の雌雄において投与期間の前半に有意な低値がみられた。剖検では、1,000 mg/kg 群の雄において腎臓の腫大及び表面粗造が認められ、腎臓相対重量の有意な高値もみられた。病理組織学的検査では、1,000 mg/kg 群において、雌雄に尿細管内又は腎盂内の結晶及び閉塞性腎症、雄に腎盂の尿路上皮過形成が認められた。
以上の結果から、本試験における L-ヒドロキシプロリンの無毒性量(NOAEL)は、雌雄ともに 300 mg/kg 体重/日と考えられた。
② 28 日間反復投与毒性試験
Crl:CD(SD)ラット(6 週齢、雌雄各 10 又は 16 匹/群)を用いたL-ヒドロキシプロリンの強制経口投与(溶媒:水、0、40、200、1,000 及び 4,000 mg/kg 体重/日)による 28 日間反復投与毒性試験が行われた 1)。対照群及び 4,000 mg/kg 群は 14 日間
の回復性を評価する群を設定した(雌雄各 6 匹/群)。
その結果、4,000 mg/kg 群の雄において摂餌量低下を伴う体重増加抑制がみられた。病理組織学的検査では、1,000 及び 4,000 mg/kg 群の雄、並びに 4,000 mg/kg 群の雌 の腎臓において、限局性の尿細管拡張及び間質の線維化が認められた。血液生化学的検査及び尿検査において腎臓特異的な所見がみられないことから、腎臓における変化は非常に軽度であり、回復性も認められた。
以上の結果から、本試験における L-ヒドロキシプロリンの NOAEL は 200 mg/kg
体重/日と考えられた。
①、②は同じ系統のラットでの試験であり、いずれも所見が見られたのは最高用量の 1,000mg/kg 群である。このため、毒性の見られない最大値である 300 mg/kg 体重/日がNOAEL とされた。
ネズミチフス菌(TA100、TA1535、TA98、TA1537)、及び大腸菌(WP2uvrA)を用い、プレインキュベーション法により、非代謝活性化及び代謝活性化条件下で復帰突然変異試験が行われた。50.0、150、500、1,500 及び 5,000 μg/plate の 5 用量を設定して用量設定試験を行った。その結果、生育阻害は、非代謝活性化及び代謝活性化条件下のいずれの検定菌においても認められなかった。被験物質に由来する沈殿は、非代謝活性化及び代謝活性化条件下のいずれの用量においても認められなかった。陰性対照値の 2 倍以上となる変異コロニー数の増加は、非代謝活性化及び
代謝活性化条件下のいずれの検定菌においても認められなかった。
以上の結果に基づき、L-ヒドロキシプロリンは、用いた試験系において遺伝子突然変異誘発性を有しない(陰性)と判定された 3)。
L-ヒドロキシプロリンの染色体異常誘発性の有無について、チャイニーズ・ハムスター細胞(CHL/IU)を用い、短時間処理法の非代謝活性化、及び代謝活性化の両条件を設けて試験が実施された。また、連続処理法においては、24 時間連続処理を設けた。L-ヒドロキシプロリン 0.06560 g(濃度設定試験)及び 0.13005 g(本試験)に、日局注射用水を加えて溶解させた後、5.046 mL(濃度設定試験)及び 10 mL
(本試験)に定容して最高濃度(13 mg/mL)の被験物質調製液を調製した。
濃度設定試験では、全ての処理条件で 0.020、0.041、0.081、0.16、0.33、0.65 及び 1.3 mg/mL の被験物質処理群を設定した。その結果、いずれの処理条件においも 50%を超える細胞増殖抑制は認められなかった。また、被験物質の沈殿(処理終了時)は、全ての被験物質処理群において認められなかった。
本試験では、全ての処理条件で 0.081、0.16、0.33、0.65 及び 1.3 mg/mL の被験物質処理群を設定した。その結果、全ての処理条件で 50%を超える細胞増殖抑制は認められなかった。また、被験物質の沈殿(処理終了時)は、全ての被験物質処理群において認められなかった。以上の結果に基づき、全ての処理条件で 0.33、0.65及び 1.3 mg/mL を設定し、染色体分析を行った。染色体分析の結果、短時間処理の代謝活性化条件下においては、構造異常を有する細胞数の傾向性検定において、5%水準で有意な用量依存性が認められた。ただし、いずれの処理条件においても、構造異常を有する細胞数及び倍数性細胞数の統計学的に有意な増加は認められなかった。
以上の結果より、L-ヒドロキシプロリンは当該試験条件下で、CHL/IU 細胞に対する染色体異常誘発作用は無い(陰性)と結論された 3)。
ヒト末梢血リンパ球細胞を用いた in vitro 小核試験が、4 時間処理(非代謝活性化及び代謝活性化条件下)、及び 24 時間処理(非代謝活性化条件下)の条件下で実施された。その結果、被験物質 2,000 µg / mL 培地の濃度まで試験したが、小核を有する細胞の出現頻度は、有意な増加を示さなかった。以上の結果より、本試験条件下で L-ヒドロキシプロリンは、in vitro 小核試験で染色体損傷性を示さなかった 4)。
細菌を用いた復帰突然変異試験、染色体異常試験、並びに in vitro 小核試験の結果、
L-ヒドロキシプロリンには遺伝毒性はないと考えられた。遺伝毒性試験のまとめ
Ames 試験 陰性
染色体異常試験 陰性
in vitro 小核試験 陰性
総合判定 陰性
L-ヒドロキシプロリンはグリオキシル酸を経てシュウ酸へ代謝される 5)。シュウ酸はカルシウムイオンと結合して腎結石となり腎障害を引き起こす 6)。
JECFA は、調味料及び強化剤用途としてのL-ヒドロキシプロリンの評価を行っていない。
欧州委員会の食品科学委員会(SCF)は、特定の栄養目的で食品に使用することが提案されている物質として、ビタミン、ミネラル、微量元素、アミノ酸等の評価を行っている。この中で、医療用途の物質として L-4-ヒドロキシプロリンを含むアミノ酸誘導体が検討されたが、SCF は申請者から提出されたデータは評価には不十分であると判断している 7)。
4.検討結果
L-ヒドロキシプロリンの流通量について、生産量統計調査を基にした食品添加物摂取 量の推定において、アミノ酸の推定摂取量は 7.1mg/人/日(0.13mg/kg 体重/日)である。
7.1mg/人/日のアミノ酸の推定摂取量について、全量 L-ヒドロキシプロリンであると仮定し、L-ヒドロキシプロリンの推定摂取量であると仮定したとき、90 日間反復投与毒性試験によって得られた無毒性量(NOAEL)300 mg/kg 体重/日に対し、L-ヒドロキシプロリンの曝露マージンは 103 であった。また、遺伝毒性の総合判定は陰性と判断されている。
以上の情報を踏まえ、食品添加物としての現状の使用において、人の健康影響に対する懸念はないと結論された。
5.参考資料
Akiduki S,et al., Twenty-eight-day oral toxicity study of L-hydroxyproline in rats with 14-day post-treatment observation period. Fundam Toxicol Sci. 2019; 6 (3): 65-74.
土井悠子:平成31年度添加物の安全性に関する試験「L-ヒドロキシプロリンに関する
90日間反復投与毒性試験」、株式会社DIMS医科学研究所、2020年
本間正充:平成30年度 指定添加物等の安全性に関する試験報告書、2019年3月25日
ECHA, L-4-hydroxyproline, https://echa.europa.eu/it/registration-dossier/-
/registered-dossier/21207/7/7/2/?documentUUID=60fbc4da-92c3-453a-80ea- e97c9571a456
Takayama T., et al., Control of oxalate formation from L-hydroxyproline in liver mitochondria, J Am Soc Nephrol 2003 Apr;14(4):939-46.
Convento M. B. et al, Calcium oxalate crystals and oxalate induce an epithelial-to- mesenchymal transition in the proximal tubular epithelial cells: Contribution to oxalate kidney injury, Sci Rep. 2017; 7: 45740.
European Commission Scientific Committee on Food: Opinion on substances for nutritional purposes which have been proposed for use ㏌ the manufacture of foods for particular nutritional purposes (‘PARNUTS’), SCF/CS/ADD/NUT/20/Final, 12/05/99, 1999